PharmDの日記

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ランダム化比較試験はもう古い!?プラグマティックトライアルとは。

プラグマティックトライアル(Pragmatic Clinical Trial, PCT)は、「ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial, RCT)と比較して、組み入れ基準や除外基準を緩くし、実臨床に近い患者(一般化可能性を高めた)を対象とした介入研究」となります。近年、下図のようにPCT試験数は増加傾向にあります。

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Introduction to Pragmatic Clinical Trials

1.従来のRCTとPTCについて

従来のRCTについて


・従来のRCTは理想的環境下で介入のEfficacy(有効性)を評価します。
     組み入れ基準や除外基準を厳格に定め、理想的環境下で介入の
     Efficacyを評価したことにより、一般化可能性が困難です。

PCTについて


・PCTは実臨床に近い環境下で介入のEffectiveness(有用性)を評価します。
 組み入れ基準や除外基準を緩めに定め、実臨床に近い環境下で介入の
   Effectivenessを評価したことにより、一般化可能性が高くなります。
   日常臨床下での医師や患者などの意思決定をサポートするために、
   試験デザインを工夫したRCTのことです。

従来のRCTとPCTの比較

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Introduction to Pragmatic Clinical Trials

上記の図を用いるRCTとPCTの違いを理解しやすいです。
Eligible population(日常臨床でのある介入における適応範囲の集団≒母集団)は、RCTとPCTはどちらも同じです。そして、Exclusions, non-response, etc.(除外基準など)は、RCTは厳格であり、PCTは緩いです。結果として、RCTは、厳選された集団で介入の効果を検証している一方で、RCTは、母集団と近い集団における有用性を検証しています。

従来のRCTとPCTのまとめ

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Introduction to Pragmatic Clinical Trials (duke.edu)


3. PRECIS-2でPCTスコアを算出しよう

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BMJ 2015;350:h2147

The PRECIS-2 tool: designing trials that are fit for purpose | The BMJ

PCTスコアを算出する方法が上記の論文で紹介されています。

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スコアは以下の9つの項目で算出されます。

1.Eligibility

5点:日常臨床でのある介入における適応範囲の集団≒母集団
1点:ある介入における適応範囲の集団から厳格な除外基準を設けた集団

2.Recruitment

5点:複数の病院・診療所からリクルート可能
1点:通常の日常臨床では使わないようなルートでリクルート

3.Setting

5点:複数の病院・診療所で試験を実施
1点:高度な医療を持つ専門医がいる病院・診療所で試験を実施

4.Organisation

5点:日常臨床での医療スタッフの業務で対応可能
1点:試験のための新規の医療スタッフの配置、指導、資金、資格など

5.Flexibility: delivery

5点:日常臨床での治療・介入と同じ
1点:介入効果の最大化のための介入のタイミング管理、併用薬剤の使用や
   副作用対応について特別な対応を行うなど

6.Flexibility: adherence

5点:服薬やコンプライアンスを強制する特別な措置のない(日常臨床)
1点:アドヒアランス改善を促す・監視、アドヒアランス不十分の
   患者を解析から除外など

7.Follow-up

5点:日常臨床以上のフォローアップを行わず、追加データ収集も最小限
1点:日常臨床の介入・治療よりも頻度の高い経過観察など

8.Primary outcome

5点:日常臨床での介入・治療効果を確認する項目で評価
1点:日常臨床の介入・治療ではあまり用いられない項目で評価

9.Primary analysis

5点:無作為化群割付けされた患者全員を ITT(割り付けられた群で)解析
1点:割付後の不適格な参加者を除外し、完遂者または治療プロトコル
   従った参加者のみを解析


各項目で5点を目指して、研究で得られた結果が直接的に実臨床の医師と患者の意思決定につながるようにしてみてはいかがでしょうか?

 

 


 


 

世界初の臨床試験を知っていますか?

 

今回は、臨床試験の歴史について説明いたします。世界初の臨床試験、無作為化比較試験、二重盲検法による無作為化比較試験はご存じでしょうか?

 

 

1.臨床研究の分類

臨床研究を目的別に分類すると…

• Diagnostic Research ー この人は何の病気だろう?
• Etiologic Research ー 何でこの病気になったのか?
• Prognostic Research - この人はこれからどうなるのだろう?
• Intervention (therapeutic) Research ー どんな治療ができるだろうか?
• Side Effect Research ー この薬の副作用は何だろう?

2.世界初の臨床試験

息切れと高麗人参

・最古の観察研究は、約1000年前の11世紀中国で行われました。高麗人参の効果を評価するために、2人の人が研究に選び、1人は高麗人参を食べ、もう一人は高麗人参を食べず、2人に約1500~2500mほど走ってもらいました。
結果として、走った後、高麗人参を食べない人はひどい息切れを発症したが、高麗人参を食べた人は均一でスムーズな呼吸をしていました。治療が
行われない対照群を用いて行われた世界初の研究になります。

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統合医療 - Google ブックス
うさぎとかめ | おはなし | ゆめある (yumearu-ehon.com)

3.世界初の無作為化比較試験

脚気と玄米

• 1905年にクアラルンプール精神病院で脚気が流行が起こりました。脚気は、神経系や心臓に影響を与える可能性のある病気で、20世紀初頭に東南アジアで一般的でした。外科医として務めていたウィリアム・フレッチャーがこの機に脚気の予防に関する研究を行いました。
・研究の内容としては、各患者に番号を割り当てて、偶数と奇数の番号で
病棟を分け、1方の病棟では玄米食を、もう1方の病棟では白米食を与えて
経過を観察しました。
・研究終了時、白米食を与えられた患者の15%が脚気で死亡し、 玄米食
与えられた方の患者は一人も死ななかったことから、 玄米食の有効性を確認しました。

ウィリアム・フレッチャーの1907年の報告書が脚気の原因と治療法の発見に貢献したこと。- ジェームズ・リンド図書館 ジェームズ・リンド図書館 (jameslindlibrary.org)

4.世界初の二重盲検法による無作為化比較試験

肺疾患(結核)と抗生物質

・1948年、疫学者であり統計学者としても知られるオースティン・ブ ラッドフォード・ヒル二重盲検法による無作為化比較試験を実施しました。この試験は、肺疾患である結核への抗生物質ストレプトマイシンの治療効果を評価するものでした。
・研究の内容として、乱数表を使用して患者を選別し、抗生物質ストレプトマイシンを使用して治療するか、ストレプトマイシンを使用せずに治療するかを決定しました。 さらに、治療を担当する医師にも、患者にも「誰がストレプトマイシンを投与されているのか」を知らせない「二重盲検法」で行いました。(詳細は封筒で管理)これらは現在、無作為化比較試験の標準的な特徴となっています。

The History of Clinical Trials | SpringerLink